タイトル | 現代軍事理論で読み解く「桶狭間の戦い」 |
著者 | 福山隆 |
出版社 | ワニブックスPLUS新書 |
読了日 | 2016年11月2日 |
元自衛隊の幹部が,今川義元と織田信長が戦った桶狭間の戦いについて考察している。桶狭間の戦いは圧倒的な大軍の義元軍が,信長軍の奇襲に敗れたと言われている。信長軍が迂回奇襲をかけたというのが,戦前からの定説になっている。
著者は,この迂回奇襲説を否定して「機動防御」という戦法で戦ったのではないかと主張している。
機動防御とは「敵の攻撃を拠点陣地の内側におびき寄せ,敵を後続部隊から孤立させて攻撃する」ものだという。桶狭間のような隘路で,義元軍が陣形を作れないような状況の中で,信長軍が個別撃破していく筋書きだったのではないか。信長がこのような筋書きで軍を進めて行った時に,丁度良いタイミングで雷雨になったため,今川義元が雷雨から避難しようと本陣から出てきたとという幸運も重なり,義元の首を取ることができたのではないか。著者はこのように分析している。
日本の軍事史は,太平洋戦争の反動から研究することがタブー視されてきた期間がある。しかし,最近になって学者たちが史料を再検討して色々な説が出るようになった。
それまでは,旧日本軍が出している旧参謀本部編「日本の戦史」が聖典となってしまっていた。その中には,自分たちの都合のいいように(軍人に対する教育的価値が出るように)史実から教訓を導き出しているものもあるらしい。戦後の研究者が史料を再評価することは,日本の歴史のためにも重要なことになるのだろう。
著者は戦国時代を複数の国が割拠する現在の世界に通じるものがあるとして,研究する価値があると言っている。史実から歴史を解釈し直すことももちろん大事なことだと思う。